第32話

「なんですって!」


叫ぶ女のキーキー声に顔をしかめる。



この女は柊を頭としてだけではなく、男としても見ているようで、女の険しい表情から、男への強い思いが伺える。



こんな女を幹部にするなんて、【陰】も落ちたもんだな、なんて思ってると、教授が入室してきて、舌打ちと共に奴らは席に戻っていった。



講義が始まって、ゆいかさんが前を向いたまま口を開く。



「香坂、咲さん?」



「は、はい。」



肩を揺らす彼女を見ずに、ゆいかさんは続ける。



「話してることを気取られないで。」



「・・・はい。」



後ろを気にしつつも、香坂も前を見据える。



「初めまして。新城ゆいかといいます。」



「!!!」



ゆいかさんの方へ顔を向けようとした彼女の服を奴らに見えないように引いたゆいかさんは、更に続ける。



「この大学じゃあ出欠を直接とらないから知らないのはわかります。」



この大学の出欠は、講堂入り口にある機械にカードを翳すというシステムになっており、生徒の人物特定は本人同士が名乗りあわない限り分からないようになっている。



それは、この大学に通うのが、令嬢や子息、財閥の子供が多いため。



大学は外部の人間が進入しやすいため、セキュリティー上基本名前は呼ばないことになっているのだ。



そのため、これまでゆいかさんの名前は知られることなくやってこれたのだが・・・



柊光樹の女に名乗っても大丈夫なんだろうか。



心配する俺を余所に、ゆいかさんは再び口を開いた。

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