柊光樹
第29話
「ちょっと、顔貸してよ。」
今日の護衛は氷上くん。
講義の合間に、トイレに行きたいということで、次の場所に移動したあと、彼が席を立った瞬間だった。
話しかけてきたのは、この間のチャラい集団。
顎で外を示す彼女に、私の眉間の皺が濃くなる。
「貸す顔はありません。他を当たってください。」
そう言い捨てた私は、ノートに再び目を通す。
「っっ、ちょっと!バカにしてんの!?」
声を張り上げた彼女に気付いた生徒たちは、ヒソヒソと此方を伺っては何か話している。
氷上くんが帰って来るまでに、時間を稼がないと。
着いて行ったら、100%良いことにはならない。
「・・・あなたを知らないのに、バカに出来るわけないじゃないですか。」
ため息を吐く私を彼女は嘲笑して口を開いた。
「ウチが【陰】のメンバーだって知らないんだぁ?白虎の金魚の糞さん?」
陰と言うワードに、隣の彼女は肩を強ばらせ、私は更に眉間に皺を寄せた。それに・・・
「金魚の糞?」
私が白虎に付き纏ってるってことだろうか?
訝しげに目の前のケバい人を見つめる私に、彼女は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そうよ、金魚の糞。調べたら、白虎には今姫はいない。
それでもあんたが彼らといるってことは、付き纏ってるってことでしょ?違う?」
「・・・違いますね。」
冷静に返す私に、反論が帰ってくるとは思わなかったらしき彼女は、面食らっている。
「じゃ、じゃあ説明しなさいよ!何で彼らといるのか!」
絶叫に近い声を張り上げる彼女の背後で、地を這うような低い声が聞こえてきた。
「・・・何してる。」
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