第7話

「今日は2時間だけだから、終わったら会社に行くね?」



そう言って事務所の前で別れる。



別々の車に乗るのは、なんだか寂しくて。




別れるとき、奏の顔はいつも以上に無表情だった。



今までは、組の仕事と定時制の時間以外、常に一緒だった。



これからは、会社の仕事も続けるとはいえ、一緒にいる時間はかなり削られる。



奏の不安もだし、私の不安も大きなものになっている。



頼ることに慣れない奏は、こうやってギリギリで爆発させる。



「ゆいか、心配事か?」



私が奏に着けられた首筋の華を撫でていると、聞こえてきたお兄ちゃんの声。



お兄ちゃんは本当に戸籍から外れる申告をして、名字は同じでも、世帯主として別の人生を歩むことになった。



私は首を振る。



「・・・ううん。大丈夫。奏が心配なだけ。」




「ふっ、兄貴の心配する奴なんてお前くらいだろ?」



隣の蓮がクツクツと笑う。



「それよ。みんな奏は何でも自分で対処できるから大丈夫、なんて思ってるでしょう?」



「・・・まぁ、事実だしな。」



肩を浮かせる蓮に苦笑い。



「・・・事実なんだけど。奏も人間なんだから。

弱い所もあるのよ?」



私が困ったように言うと、蓮が小さく笑う。



「まぁ、そうだろうな。でもそれはお前だから見せる兄貴の一面だ。きっと俺たちは一生拝めないだろうな。だから、お前が傍で支えてやれば問題ないさ。」



「・・・そうね、隼人が怪我する前にね?」



話をしている内に車は大学に着いた。




「蓮は今日は授業は?」



「ああ、あるよ。しかもお前と時間一緒で2時間だけ。だから帰りは俺も一緒だから。」



「・・・そう。」




カチャリ




車のドアが開き、蓮が降りる。



振り返って差し出された蓮の手。



奏とは違う、大きなゴツゴツしたそれは、なんだか懐かしい。



触ると奏とは違う感触に違和感を感じるも、蓮の手に引かれて外へ出る。

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