第58話

「てめぇ、惚れたな?沈める。」



拳を鳴らせた秋に、壮士が後ずさる。



「わ、若?そんなわけないでしょう?」



「・・・。」



いつもこんな苦労を強いられているんだろうか・・・



本気で壮士に同情する。



秋が壮士に今にも殴りかかりそうなので、私はため息を吐いた。



「秋?服を選んでくれるんじゃないの?」


私の言葉に、秋の背中がピタリと止まる。



振り返った秋は、私にトロケるような笑みを向けた。



「・・・お前、スカートは普段履くか?」



「・・・状況によるわね。」



それを聞いた秋は、店内をまわりだす。



それについていくと、店員さんの一人に話しかけられた。



「いらっしゃいませ新城様。

本日は゛こちらの゛お客様へ?」



・・・棘、というより嘲笑を感じる。



こんな店員がいるなんて・・・高級店なのに。



広子がいたら怒鳴るな。



クスリと私が笑うと、店員さんが眉をピクリと動かした。



店員は秋に話しかけてるみたいだから、私は服を見て回るため2人に背を向ける。



すると、私の腰に回る力強い腕。



「・・・行くなよ。お前を見ながら選びてえ。」



切なげに言葉を紡ぐ秋に、店員の口があんぐりと開く。



「・・・その台詞、どこで覚えたのよ?」


「あ?天然だ、天然。」



秋は嬉しそうに私の手の甲にキスを落とす。



『・・・オヤジと姐さんを見て育ってますからね。マジで天然です。』



ヒソヒソと私に教えてくれた壮士に吹き出した。



『そりゃそうだ。この町一のカップルだもんね?』



ヒソヒソとそう返して、秋に微笑んだ。



「秋?なにを選んだの?」



秋にそう聞けば、いつの間にかマトモな方の店員に預けていた大量の服。



「着てみろよ。」




そのあと、自身のファッションショーのせいでかなり疲れたのは言うまでもない。



だけど店を出れば、ご満悦の秋。



結局クローゼットが埋まりそうなほどの服を買ってもらい、小心者な私は怖くてお会計が見れませんでした。



さっきの店員さんは、何故かいつの間にかいなかった。



そして、やってきました新城本家。



ものスゴい門構えを前に、唾を飲み込んだ。

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