第53話

「?? まぁ、いいけど、テストはいつ?」



壮士に聞くと、彼は私に微笑む。



「来週には。それに、あの町でしなければならないことがおありでしょう?」



「・・・両親、の、骨は?」



私は、両親のお葬式もしていない、親不幸者だ。



震える私の声に、秋の抱きしめる力が増し、壮士が悲しそうに笑みを零した。



「ご両親の人柄でしょうか?

あなたのバイト先の店主の呼びかけに応じて、みんなでお金を出しあって簡素なお葬式を挙げたそうですよ。

お骨はそのパン屋があなたが発見されるまで預かっているそうです。」



「・・・うん。私もお葬式行ってきた。

あのガリ、喪主までしていろいろしてくれたから、お礼言わないと?」



「っっ、店長っ、」



パン屋のくせに細い店長は広子にガリなんて呼ばれてるけど、

私のお父さんの長年の親友で。



そんな店長が私の代わりにいろいろしてくれたのに、感謝してもしきれない。



涙を流す私のこめかみに、秋が口付ける。



「・・・他の男を想って泣くな。」



「・・・プッ、」



秋の変な嫉妬に壮士が吹き出した。



「・・・じゃぁ、私、帰るわ。」



そう言った広子は、腰をあげて私に微笑んだ。



「・・・え?もう?」


残念そうな私の声に、広子は困った様に眉を寄せる。



「帰れなくなっちゃうから。

・・・・・・・・新城秋?」



広子は一転、鋭い視線を秋に向ける。



「・・・なんだ?」



秋もその鋭い視線を広子に向けた。



「・・・弓を、よろしく。泣かせたら、新城諸共潰してやるから。」



そう言って微笑んだ広子の笑みは、黒い。



「・・・上等だ。弓は俺の唯一無二になった。泣かすような真似はしねえ。」



自信満々で口角を上げた秋に、広子が鼻を鳴らす。



「フン、まぁいいわ?三井、弓の携帯買ったら私に報告してね?送ってくださるかしら?」



「・・・ええ、喜んで。」



微笑みあった2人は玄関へ向かう。


腰を上げようとした私を、広子は手で制した。



「見送りいいから、じゃぁ、また。」



そう言って部屋を出て行ってしまった。



・・・男らしいっす、広子様。

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