第51話

「・・・てめぇ、マジで殺すぞ。」



本日最低の低音を出した秋は、広子の腕の中から私を取り返す。



広子は涙を拭って、そんな秋を鼻で笑った。



「フン、新城秋?まだ思い合っていないのにそんな態度、いいのかしら?」



「・・・どういう意味だ。」



腕を組んでクスリと笑う広子に、秋の訝しげな声が降る。



「少なくとも、現時点ではあなたより、゛私゛の方が弓に好かれてるし?」



「・・・。」



視線を上げれば、秋は顔を険しく歪めていて、誇らしげな表情の広子の方がかなり有利に見える。



「男の嫉妬は醜いわよ~?気持ちが伴ってないと特にねぇ?嫌われちゃうかも?」



「・・・本当か?」



悲しそうな秋の目が私を捕らえる。



「・・・そんなこと、


「ないって答えるわよねぇ?それが大人な対応ですもの?」


              ………、」



「チッ、」



フフンと鼻を慣らした広子に忌々しそうに舌打ちをした秋は、眉を下げて私の正面に回る。


そして、私の手をそっと手に取った。




「・・・俺が、嫉妬すんのは、イヤか?」



「うっ、」



秋の潤目に、とんでもないダメージを食らった私は、



「そっ、そんなことないって!本心で!」



気がつけば、そんなことを言った後で。



「・・・大丈夫、だそうだ。」



ドヤ顔の秋がおもしろくなさそうな表情の広子にそう吐き捨てた、後で。




「・・・・プッ、」



壮士が思わず吹き出した、後で。



居たたまれない私は、俯くしかなかった。



「座りませんか?」



そう言った壮士に促され、2脚ある長ソファーに腰掛けた広子。



それに続こうとした私は、



「お前はココ、だ。」


「・・・やっぱり?」



1脚だけある、黒の1、5人掛けのソファーの、秋の足の間に、誘われる。



私が秋といると決めてから、この人は私をここに座らせる。



・・・さすがに、広子の前では、ハズい。



だけど、見上げてくる秋の潤目にあらがえる筈もなく、



「シツレイイタシマスゥ。」



片言で渋々、腰を下ろす。



すると、満足げな表情の秋と、



「チッ、」


舌打ちをする、はしたない広子様。



「・・・・プクククッ」



今更もう隠すこともなく笑い出す壮士。





広子と秋は、ライバルになってしまったらしい。

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