第48話

「こいつは香坂雅人(こうさかまさと)

秋様の側近の一人です。」



「・・・よろしく。」



「はぁ、どうも。」




見た感じ30代の男は、無表情を崩さずに頭を下げてきた。



それに頭を下げ返した私。



私たちを見て、三井は苦笑いをコボした。



「すいませんね。バカ真面目な奴で。

仕事中以外はもうちょっと明るいので。」


「・・・はぁ?」



はっきりいってこいつの普段の明るさなんてどうでもいい私は、間抜けな声を出す。



その香坂さんが素早く黒塗りの高級車の扉を開け、頭を下げる。



「・・・どうも。」



気まずい私は、車に乗り込んだ。



そして運転席に香坂さん、助手席に三井が乗りこむと、静かに滑り出す車。



すぐに三井は私に話しかけてきた。



「弓様は、この町で生活するつもりで事件の当日、この町にいらしたようです。」



「っっ、弓っ、」



どんなに辛かっただろう。



弓の心境を考えると、こみ上げる涙を止めることはできなかった。



嗚咽を漏らす私に、三井がハンカチを差し出す。



小さく頭を下げた私はハンカチを受け取った。



心地よいムスクの香りに、心が落ち着いた。



「1週間ほど、ティッシュ配りのバイトをして、マンガ喫茶で寝泊まりをしていました。」



「チッ、」



思わず舌打ちが漏れる。



そんな私に苦笑した三井は先を続けた。



「秋様は、父上にとっての黒蝶のような存在を求めておいででした。」



「・・・それで、弓を?」



三井がミラー越しに微笑む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る