第32話

side 壮士



秋は感情の表現が不器用な奴で。



それはオヤジから継いだものだと思う。



それでも、オヤジよりヒドい。



現に、今嬉しそうに微笑んで秋の胸に収まる彼女をどうすればいいのか戸惑っている。



秋のぎこちない手が、弓ちゃんの背中にそっと触れた。



・・・瞬間、



彼女は深い悲しみを宿した目で秋を見た。



「・・・どうした?」



訝しげな秋の言葉に、彼女は少し考えて小さく自嘲の笑みを漏らした。


そして呟く。



「・・・背中を撫でるのは、渉の癖だった。」



彼女が゛悪女゛になったワケを。



「私のお父さんは町の牛乳屋さんで。

私はお父さんの知り合いのパン屋でアルバイトをしてたの。」



「・・・座れ。」



秋がソファーへ彼女を促し、聞く体制に入った。



彼女は遠くを見つめて楽しげに語る。



「おおざっぱな父でね?私は中2くらいから手伝いって形で働いてたの。

そんぐらい良くね?とかいってさ?」



彼女の表情からは、父親への愛情が感じられた。


しかし、彼女の表情はあっという間に曇る。



「・・・中3の時に、お店に来たのが渉。」



「・・・そうか。」



彼女の眼に浮かぶのは、切なさ。



秋がそんな彼女の眼を、切なそうに見ている。



「毎日通ってくれて、話すようになった。

そんな会話の中で、進学する高校が同じことが分かって。そん時は、スゴく嬉しかったのを覚えてる。」



彼女は鼻で笑う。



「中3の3月、告白されて。

私は喜んでそれを受けた。

・・・彼に゛お姫様゛がいることを知らずに、ね?」



彼女の顔が、苦しそうに歪む。



「幼なじみの女の子で、身体が弱いんだって。自分が面倒みてるから、登下校はその子とするって、こともなげに言われた。」



彼女は、手で目を覆ってしまった。



「彼はね?歴代の彼女と、゛姫゛のことで揉めて別れて来たんだって。

付き合い初めで言われたことは、


『弓は、姫を見捨てろなんて、非道なこと言わないよな?』



だった。その時点で、私の【発言権】は無くなったの。」



彼女は悲しそうに揺れる目を秋に向けた。

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