第23話

どこかのゲームみたいだな、と、若干ゲーマー気味な私はそう思った覚えがある。



「俺は、そんな親父と母さんの関係に憧れてる。」



「・・・そうですね。」



愛し、愛される、お互いが唯一無二の関係。



そんな唯一な存在を見つけた【冷帝と黒蝶】が、羨ましい。



・・・私には、そんな存在はいらない。



゛愛した゛ことで、業火に焼かれた両親。




私は、【悪女】だから。




自嘲して笑みが漏れた私を見て、目の前の彼は立ち上がって私の前に膝をついた。



戸惑いに揺れる私の目は、彼の綺麗な顔を写す。



彼はおもむろに私の手を取ると、穏やかに微笑んだ。



「俺は、親父にとっての母さんのような女を捜してきた。」



「・・・、」



彼の吸い込まれそうな漆黒に、身動きができない。



「初めはすぐに見つかると思ったんだ。

親父は一目で分かるしか言わねえし。」



伏せられたその目は、苦渋を胎んでいる。



「どんな女を抱こうが、不幸な境遇の女を助けようが、俺のこの胸に響く女はいなかった。」



常に、本気で愛そうとしてきた彼は、ことごとく裏切られてきたんだろう。



目の前の彼を、抱きしめたくなった。



だけど咄嗟に出かかった手を引っ込める。



私が愛すれば、彼自身が命を落とすかもしれない。



いや、彼の愛する家族かも。



忘れるな。私は、悪女だ。



すると彼は私の震える手をその大きな手で包み、もう片方の手を私の頬に滑らせた。



そして妖艶な笑みを浮かべる。



「・・・やっと、お前を見つけたんだ。」



「っっ、そんなわけっ、」



私は弾む鼓動を知られたくなくて、彼の手を振りほどいて距離を取った。



彼はそんな自分の手を見つめていたけど、ニヤリと口角を上げた。



「まぁいい。俺はお前に決めたんだ。

もう・・・逃げられないぞ。」



「っっ、」




穏やかだった彼の目は、獲物を狙う獰猛な禽獣のように鋭く細められた。



彼に見つかった時点でもう私は逃げられなくなっていたのだと、この時初めて自覚した。

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