第22話

「その辺に座れ。」



彼は私にそう言うと、キッチンへ向かう。



「コーヒーでいいか?」



「・・・いらない。」



断る私にクスリと笑みを向けると、無言でサーバーから2人分をマグカップに注ぎだした。



(・・・最初から聞く気はないってことね。)



私はため息をコボすと、目に入った黒の長ソファーに腰掛けた。



改めて、部屋を見渡す。



失礼かなと思いながらも、リビングの余りの広さに唖然となった。



「お父さんがいたら、オナラが響きそうとか言いそう。」



そう呟き笑みがこぼれた私は、ソファーの背もたれに頭を乗せた。




「・・・この部屋はな、俺の親父が住んでた部屋だ。」



マグを2つ持った彼は、私の前にその1つを置いた。



出されたものに口をつけないわけにはいかなくて、渋々お礼を言って口に含んだ。



口の中に広がる、香りの良いコーヒーの味。



違いが分かるほどの舌じゃなくても、私好みの味だった。



「・・・お父さんって、新城奏さんですよね?」



「・・・ああ。」



私の呟きに、彼は弾んだ声で答えた。



顔をあげると、彼は口元に笑みを見せていた。



「・・・俺には兄弟があと3人いてな。」



タバコに火を点けた彼は、遠い目をした。



「俺たち兄弟は、新城奏の息子・娘ってことに誇りを持っている。」



彼は遠くを見つめた目を細めた。



「親父は冷酷な男だ。」



「・・・噂には聞いてる。」



誰を殺した、とか、一人で組をひとつ潰した、とか、゛新城奏゛の悪の噂は隣町の牛乳屋の娘の耳にも届いているから。



そんな中でも、彼が冷酷だという噂と・・・



「そんな親父が、唯一無二で愛している女がいる。」



「・・・【黒蝶】」



「ああ。それが俺たちの母さんだ。」



彼は愛おしそうに、笑みを深めた。



黒蝶の存在は、今や新城の象徴だった。



会社と組、両方の顔であり、この町の支配者である新城奏。



冷酷無慈悲な彼が、唯一崇め、膝を折る存在、黒蝶。



彼の彼女に対する愛情の深さは、有名すぎるくらい有名だ。



どんな世代の女性も、彼女のように愛されたいと、憧れる。



そしてそんな彼女を取り巻くのは、2人の騎士と、2匹の犬。



そして4人の子供たち。

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