第20話

「・・・どうした?」



不思議そうに聞いてきた男をキツく睨んだ。



「どうした、じゃないし。

私はマンガ喫茶にいたのにどうしてここにいるの。」



緩んだ男の腕の隙間から抜け出せば、言いしれぬ喪失感があり、戸惑いに瞳が揺れる。



男は無言で壁に背を預けると、私をその漆黒の瞳に写した。



「・・・お前は俺が拾った。

だからここに連れてきた。」



「・・・意味が分からない。とにかく、熱が出た私を見てくれたことには感謝します。ありがとう。」



私は男に頭を下げると、すぐに腰を上げた。


「・・・どこへ行く?」



男の声が鋭くなった。



しかし、私にはそんな事関係ない。



「帰る。」



そう言ってベッドから降りた瞬間、自分の纏っている服装に気が付いた。



「・・・。」



Yシャツ1枚・・・・


「・・・。」


「・・・。」



男と見つめ合うこと数秒。



なにも話そうとしない男にムカついて、そのまま玄関へ向かった。



男が引き留めた気がしたけど、これ以上【男】なんかと同じ空間にいたくなかった。



ガチャリと玄関を開ければ、広がるのはエレベーターフロア。



どうやらこの階に部屋は一室だけのようだった。



部屋を出てエレベーターの下ボタンを押す。



腕を組んで上部の数字を見て考える。



・・・私の財布、どこだろう。



遂に一文無しになった。



服もこのシャツ1枚だけ。



(とりあえず公園の炊き出しにでも行こうかな。)



開いたエレベーターに足を踏み入れようとすれば、



勢いよく後ろ手に引っ張られ、私の体はシトラスに包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る