第16話

side 弓



フワフワする。



なんだか、浮いている気分だ。





「弓。俺、さ……将来医者になるじゃん?」


「そうだろうね?」



隣の渉が困ったように笑みを見せる。



「だから、将来はうちの病院、継ぐわけじゃん?」


「・・・そうだね?」


「だから・・・将来は・・・・・」




彼から吐き出された言葉は、果たされることはない。



「わた・・・る。」



私の口から、切ない吐息と共に吐き出された、愛しい名前。



こんなにも、まだ溢れる想い。



「それが・・・お前をこうした奴の名前か?」



誰かの心地よい低音が耳に響いた気がした。



永い、永い夢を見ていた気がする。



熱にうなされた体は、意識の覚醒を許さなくて。



時折意識が浮上するも、自分がどこにいるのかも分からなかった。




ただ、覚えているのはシトラスの香りと、誰かの温もり、シーツの感触。



渉を求める私の手は、渉じゃない香りが包み込んで・・・



「・・・弓、」



心配そうに私を呼ぶのは、渉じゃない低い声。



だけど何故か、私の耳には心地よく響いた。

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