第15話

「若、彼女のお名前は??」


「・・・弓、だ。」




「何故マン喫なんですか?」


「・・・訳ありだそうだ。」


「・・・。」



それからすぐに車は指定の場所に滑り込んだ。



運転手の雅人が扉を開けて頭を下げる。



俺が降りると、ガヤついた繁華街に広がる静寂。



「・・・マン喫なんて、初めて来ますね?」


隣の壮士がキラキラと目を輝かせて店を眺めている。



「・・・行くぞ。」



俺がそう言えば、先を歩き出す壮士。



雅人が店の扉を開ける。



店に入れば、顔色が真っ青な店員が体を震わせていた。



「すいません、店員さん?」



壮士の柔らかなもの言いに、店員の強ばった顔も和らぐ。


しかし・・・



「市ノ瀬弓のブースを教えろ。」


「ヒッ、」



俺の一言で、小さな悲鳴が漏れた。



俺が眉間に皺を寄せると、もの凄い早さでパソコンを調べだした店員。



「び、B-5ですぅ!」



店員に一瞥もくれずに、奥へ進んだ。



B-5の扉を押せば・・・



狭い空間で丸まる少女。



ショートの黒髪は艶めいていて、堅く閉じられた瞼からは、長いまつげが除く。


甘そうな薄いピンクの唇は苦しげに開いていて、頬は朱色に染まっていた。



美しいと思った。



それと同時に、この女は、俺のものだと確信する。



抱き上げれば、苦しそうに歪む顔。



「熱がある。用意しろ。」


「は。」



携帯を耳に当てた壮士と共に、車に戻る。



車に乗り込み、膝に乗せれば、



「・・・ん、」



彼女は寒さからか俺の胸にすり寄った。



「・・・待ってろ。すぐに楽にしてやる。」



熱い額に口づけた。

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