第11話

「・・・弓?起きろよ。」


「ん・・・渉??」



背中をなでるのは、渉の癖。



「泊まれないんだろ?送ってくから」


「・・・ん、」



必ず、送ってくれる渉。



眠っている私の瞼に、渉のキスが落ちた。



目が覚めれば・・・・・


「寝ちゃってたのか・・・」



パソコンの画面は、スクリーンセーバーになっていて。



起きた拍子に手がマウスに当たり、画面が戻る。



寝起きで霞む目を細めて、画面に目を通した。



「キャバクラ・・・」



すぐに出るのは、夜の仕事。


だけど・・・



「・・・無理だなー。」



ため息を漏らす。



酒好きの父は、



「若い内から飲んでれば強くなる。」



なんて意味不明の言い訳をして私を酒の相手にさせた。



父に似たのか、お酒には強い私。


だけど、



「男が相手ってのが・・・」



頭を抱えた。


夜の華やかな世界の住人にはなれそうもない。



私には、愛想もなければ、巧みな話術もないから。



そのせいか、連日、同じティッシュ配りのバイトをしていた。



どうやら私には、ティッシュ配りの才能があるらしい。



何故かみんな貰ってくれる。



歩合じゃないとこで働いてるのを、悔やむ程。



これを初めて、1週間。


マン喫も、そろそろキツいから。



「・・・住み込み、マジで。」



呟いたところで、濡れた頬に気付いた。



「夢、見た気がする。」



どんな夢か、思い出せなかった。



それなのに、心は痛んで。


体も熱っぽかった。


明日は、休みにしようと思った。



1日、6000円。


1週間で、48000円。


少し、余裕が出来たから。



パソコンを消して、再び目を閉じた。

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