第5話

「お待たせっ、!?」



待ち合わせ場所に向かえば、いたのは中島さんと、村人達。



ペコリと頭を下げて、辺りを見渡した。



時刻は18時。



渉が時間に遅れることはまず無いから、なんだか落ち着かない。



「あ、あのっ、」



透き通る綺麗な声が聞こえ、そちらへ視線をやると、



大きな目に涙を貯めた、中島さん。



「たるくんに、私が嘘をついちゃったんです。あなたと、お話したかったから。」



申し訳なさそうに目を伏せる彼女からは、イチゴのボディバターの香りがした。



「・・・はぁ。」



私の気の抜けた返事に、村人たちの目がギラついた。



「黙って聞けよブスッ!」



「え、よ、みぃちゃんだめだよ!そんなこと言ったら!」



目をまんまるにした中島さんが、村人Aを慌てて制した。



「ちょっと、姫?今日は一言言うんでしょ?こんなんでびっくりしてちゃダメだよ?」



村人Aは、優しい声音で諭すように言う。



「ほれ、言ってやりな?」


「・・・う、うん。」


Aに背中を押された中島さんは、目に涙を貯めて怖ず怖ずと口を開いた。



「あ、あの、私、私には、たるくんが一番なんですっ。

市ノ瀬さんには、他にも男の人がいるって聞きました。

だから、たるくんが一番じゃないならっ、私にたるくんを返して下さいっ!

お願いします!!!」



深々と頭を下げた彼女の後頭部をボウッと見つめていた。



「ほらっ!姫がこうして言ってるじゃん!返してあげろよっ!」



Aが怒鳴る。



「・・・ははっ、なに言ってんの?」



バカバカしくて笑えた。



他に男がいる?そんな噂まであったんだ。



学校一の人気者の渉。


【姫のもの】らしい渉。



彼の彼女をやってると、飛び交う私だけを攻撃する噂の数々。



援交してる、とか、金目当て、だとか。



今度は浮気らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る