第536話

部屋の端には黒服を着た男たちが3人ほど。



少し、古臭い香りが鼻に付くこの店は、私に不快感を与えた。



床板もとても古い様に見える。


置いてある家具も悪い意味でビンテージ物。


老朽化したこの不快な空間の中で一点、



茶髪の彼の背後に置いてある水槽。



幻想的な蒼。


泳いでいる魚は色とりどりで。


そんな魅惑的な美しさを魅せる水槽の前に立っている茶髪の男性が、まるで悪魔の様に見えて。



肌がゾクリと粟立った。



「あ、気が付いたよ。」



私がジッと見ていたせいか、少し距離があるのに茶髪の彼は私の存在に気が付いてしまった。



ドクリと心臓がうねる。



私たちをただ笑顔で見つめている小林先輩。


少しずつこちらへと歩を進めてくる茶髪の男性。


まるで逃げ道を無くすように立っている黒服たち。



そして何より、茶髪の男性の目。



この目はよく見てきた。



お金目当てに私を誘拐しようとした大人。


私の”家”を見ていたこれまでお付き合いしてきた男性たち。


すり寄ってくる婦人会の女性たち。



同じ目。【欲】に忠実な、最低な人間がする目だった。




「・・・・そういうこと。」



未だに身体に残る重い感じは、恐らく…、




「君、いいね。」




髪をかきあげた私を見下ろした茶髪の彼は、そう言って口元に弧を描いた。



「要求は、なんでしょうか?」



ソファーに身を委ねた私は、未だに眠っている樹莉へと視線を滑らせる。



幸せそうに寝息を立てている彼女に苦笑いが漏れた。

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