第535話

おしぼりを貰ってすぐ座敷へと戻ると、小林先輩がスマホをいじっていた。



「あ、お帰り~。」


「は、ぁ、これ、おしぼりです。」



私が差し出したおしぼりを、小林先輩は一瞥だけすると、


「んー、そこ置いといて?」


それだけを言って再びスマホへと視線を滑らせる。



取りに行かせといて…、なんて心の中で愚痴を言っていると、樹莉と三池先輩も戻って来た。




「そろそろ移動するから。今飲んでるの飲んじゃってね?」



それだけ言って再びスマホを弄り出した小林先輩に違和感を持ったけれど、残して帰るわけにもいかず、私たちは残りのお酒を早急に喉に流し込む。



最後に見たのは強い睡魔に歪んだ居酒屋の風景と、柱にもたれて眠る樹莉、そして…、



困惑する三池先輩と、とても楽しそうに笑っている小林先輩の笑顔だった。




ーーーーーー、




「ん、」



重たい瞼を上げれば、鼻を衝いた煙草の香り。



「よさそうだけどさ、いいわけ?」


「何?こんなお子様とケバイ女じゃ勃たない?」



そして誰か、男性の声と小林先輩の嘲るような声。




身を起こせば、古ぼけたバーの端のソファーの上に、私と樹莉は寝転んでいた。



バーカウンターでは煙草を吸いながらお酒を煽る小林先輩、そして明るい茶髪を後ろに流した男性が、煙草を口にくわえたまま目を細めてカウンターの内側でグラスを持って立っていた。

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