第534話
先輩たちにまず連れてこられたのは、どこにでもある居酒屋のチェーン店だった。
見たことも無い店内。
お酒の宣伝のポスターや、料理の紹介の紙が所狭しと張り巡らされ、奥の座敷では大学生らしき一団がはしゃぎ回っていた。
「ごめんね、知り合いの店が、あと1時間開かないからさ。」
そう言う先輩に首を傾げた。
「え?2件目、行くんですか?」
私はここで数時間飲んで迎えを呼ぼうと思っていたから、正直2件目に付き合う気なんてなかった。
そんな私に小林先輩は、
「何よ。嫌なの?」
低い声を出して、険しい形相を向けてくる。
「い、いえ。」
「そ?」
先輩の誘いを断るのは失礼にあたるのだろうと、ぎこちなく頷いた私に一転、笑顔に表情を変えた小林先輩に手を引かれ、少し奥まった座敷へと腰を下ろした。
ーーーーー、
「すみませぇん、私トイレ。」
「私もー。共に化粧を直そうぜ。」
落ち込んでいた樹莉は三池先輩に励まされ、本来の彼女を取り戻していた。
「「・・・。」」
何故か三池先輩も樹莉とトイレに行ってしまい、残ったのは私と小林先輩。
なんだか今日の小林先輩は怖い。
さっきから穏やかに笑っている小林先輩への話題を模索していると、先輩が徐に口を開いた。
「ごめん、おしぼり、貰ってきてくれない?」
「え?ああ、はい、分かりました。」
正直話すことも無くて困り果てていた私は、小さく溜息を洩らして座敷を後にした。
私が居なくなった座敷で、小林先輩が醜く顔を歪めていた事も知らずに。
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