第62話

翠の前で画面を開くのは得策やないやろな。



震えが止むのを待って真琴に微笑んだ。



「真琴?フライパン、重いやろ。僕が持ったる。」


「え?ありがと「龍綺様、私が。」」



真琴が僕へ手渡そうとしてるのを、翠が遮った。



「いけずやな、翠。嫁さんの物を持つんは夫て決まってるやろ?」


「申し訳ございませんが、それは一般例です。」



無機質に言い放った翠は、組員へと紙袋を渡す。


忌々しいなぁ、内緒で捨てたろ思うてたのに。



フライパンを恨めしげに見ていると、真琴の笑顔がそれを遮る。


「龍綺!気持ちだけでも嬉しいよ!」


「っっ、ん。」


少々、罪悪感が残るが、嬉しそうな真琴を前にすればそれも気にならん。


真琴の耳元へ口を寄せる。



「まこっちゃん、1回戦追加やな。」


「はぁ!?ばっ、バカヤロー!!」



平手が飛んできたのを軽々と避けて真琴の腰に手を添えた。



「茶、飲もうか?」


「オッ!いいねぇ。私いい店知ってる。」



自身の腰に添えた僕の手を振り解いて万智の手を引っ張って行ってしまった真琴に苦笑を漏らす。



「ちょっとはゆいかを見習って貰えんやろか。」



僕もベタベタしたいなぁ・・・、



真琴の背中を眩しげに見て目を細めた僕の隣に翠が並ぶ。



「ゆいか様は数少ない例だと御自分で申し上げていたでしょう?」



首を傾げる翠に、眉を潜めた。



「人間、愛する人間とはイチャつきたいもんや。大目に見ぃ。」


「・・・承知致しました。」



翠と光樹を伴って真琴の背後を追う。



先ほどの女へと一瞬視線をやったが、女は姿を消していた。

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