第57話

side 光樹



「10時の方向、龍綺様目当ての女性の人数が増えてきています。排除を。」


「4時の方向、赤い服の女性、様子がおかしいです。排除を。」


「2時の方向、ガラの悪い連中がいます。警戒してください。」



視線はお嬢、しかし口は忙しなく耳元のイヤホンへと指示を出し続けている。



「なんで、そんなに見ているんだ?」



指示出しが止んだところで質問してみた。



すると翠は漸く、お嬢に送っていた視線を此方へ一瞬向けたが、再び熱心に顔を真っ赤にするお嬢へと視線を戻して口を開いた。



「彼女を、観察しているんです。」


「・・・・それで?」



訝しげな俺の声に、無機質な翠の声が返る。



「彼女の癖、彼女の歩き方、彼女の好きな物、知っておきたいんです。」



だから、見ています。



そう呟いた翠は、彼女へ向ける目を細めた。



俺がさっき言った時にはあんなに頑なだったのに、心境の変化に面食らう。



「龍綺様に、」


「ああ、」



話し出した翠の声音は、若干の温もりを感じる。



龍綺様の事を話すとき特有の現象だった。



「龍綺様が、熱の違いを知れといいました。」


「熱、か?」


「はい。だから、違いを見つけています。」



そう言って一瞬だけ此方を見た翠は、再びお嬢の観察に戻る。



とりあえず、訳が分かんねえんだが……、



「女性陣に声をかけそうな者がおります。排除を。」



お嬢を見ようとしてくれているようだからよしとするか?

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