第55話

しかし、


「ッッ、龍綺様っ、」


「ん?」



熱さに、喘ぐ。



胸元を握り締めた私の唇からは、弱々しい声しか発せられない。



「この熱さは、"苦手"ですっ‥‥、」



苦しさに顔を歪め、龍綺様に懇願するように吐き出した。



『ティアナ‥‥、ック、』


『ティアナ、愛している。』


『ティアナ』


『ティアナ』


『ティアナ』



「ウッ‥‥、」


頭に鳴り響くは、あの男が私の中に熱を吐き出し続けながら母の名を呼ぶ声。



あの男に揺すられる度、私の熱は上がっていった。



「あ、熱、」


熱さに喘いだ瞬間、



「・・・・落ち着き。」



龍綺様の冷たい手が私の額を撫でた。



気持ちよさに、思わず目を閉じる。



すると、耳に入るは龍綺様のハスキーな心地よい音色だけ。



「その"熱"は、違う。

君が人としての感情を持っているから湧き上がる"熱"や。」



彼女へ感じたこの感情を、認めなかった私への罰か、

龍綺様の心地よい手は離れていってしまい、私は熱に喘ぐ。



「認めや。お前は彼女に何かを感じてる。」



龍綺様の暖かな声と同時に目を開けば、優しく微笑む龍綺様と目が合った。



「まずは感じたと、認め。まずはそこからや。ええか?」


「・・・・・、ッッ、はぃ。」


絞り出すように返事をした瞬間、私の心に何かが灯った。



すると不思議と頭の中の声は無くなり、恥ずかしさが浮かぶ。



「申し訳ありません、取り乱しました。」



頭を下げれば、龍綺様は煙管を灰捨てで鳴らした。



「落ち着くのが早すぎるんも考えもんやな。ええわ、出掛けるから配備せ。」


「承知しました。」



頬の熱は、最早無い。


この感情をゆっくりと分析していきたいと思う。



私らしく、一歩ずつ。

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