第54話

side 翠



「失礼致します。翠です。」



「・・・入り。」



龍綺様の声に襖を開け、部屋へと入り正座をした。



「龍綺様、真琴様がお出かけになるそうです。警備を付けますが、龍綺様も一緒に行かれますか?」



伏し目がちに、問いかけた。


しかし、


「・・・、」



龍綺様は無言で‥‥、



「龍綺様?」



私は問いかけながら顔を上げた。



「龍綺様。」



目の前には、手に煙管を載せたまま、呆然と此方を見る龍綺様がいつもの場所に座していた。



「龍綺様?」



訝しげにもう一度呼ぶと、龍綺様は我に返り、面白そうに顔を歪めた。



「翠、気付いてるか?」


「・・・、何を、でしょうか。」



そう問いかける私に、龍綺様は煙管の煙を宙へ立ち上らせながら微笑んだ。



「顔・・・、紅いで?」



「ッッ、」



慌てて頬へと手を滑らせる。



私の頬は、熱を持っていて。



「ククッ、気付いてたやろ、それ。」



龍綺様の確信をもった物言いにも反論はできない。




気付いていた。



彼女に触れられた瞬間、身体中に熱が拡がったのを。

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