第51話

「買い物行くんだけどさ、男ばっか!

龍綺は歩くだけで女呼び寄せちゃうし、翠は無言でついてくるしさっ、」



頬を膨らませる真琴は苦々しく吐き捨てる。



「超面白くねえ。私は"女子"と買い物がしたいわけ。

て、事で、」



「え?」



顔を上げた私の腕をガッシリと掴む真琴は満面の笑顔。



「考えたらさー。万智引っ越したばっかじゃん?必要な物買いに行こっか!」


「え?しかし‥‥、外出には許可が、」


「大丈夫だって!龍綺にこれから言いに行って1時間後に出るし。

先に部屋案内しちゃる。」


「は、はぁ、」



真琴にずるずると引かれるまま、部屋を後にする。



すると廊下で、



「翠、」



翠様に出くわした。


「真琴様、どうされましたか。」



無機質な彼の声、冷めた目に、私の体は凍りつく。



「買い物行くから、手配してちょ。」


「・・・かしこまりました。」



それだけを返した翠様は、私の方を見もせずにすれ違おうとする。



咄嗟に、



ギュ‥‥、「ッッ、」




彼の背広の腕の部分を掴んでいた。



前を向いたままの彼に、笑顔を張り付けて口を開く。


「翠様、これからよろしくお願いします。」



震える声で言えたのは、そんな何気無い言葉だけ。



情けないけれど、今の私にはそれが精一杯だった。



「・・・・はぃ。」



そうとだけ呟いた彼は、乱暴に腕を振り払って足早にこの場を去ってしまった。

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