第38話

side 龍綺



ホンマ、ハラハラしたわ。



真琴が勢いよく入ってきて目を輝かせるもんやから翠が訝しげに様子を伺うてる。



なんとか気づかれずに部屋の襖が開いた。



先に入るは、光樹。


静かに頭を下げ、左足を引きずりながら入室してきた。



続いて・・・、



「ッッ、」



入室してきた人物に、翠が息を呑む。



「待ってたよ!万智!」



真琴の嬉しそうな声にぎこちなく頷いた、万智やった。



「ッッ、」



扇子越しに目を細めて翠を見る。



忌々しそうに苦い顔をして彼女を見ないように目線を下げた翠は、頭痛がするのか額に手を当てた。



(拒否の方がまだ強い、か。)



恐らく、自身が感じる感情を持て余している翠は、体に影響が出ている。



誰も気付いとらせんが、


僕は、気付いてる。



夜中、決まった時間に必ず僕の無事を確かめに来る翠が、昨夜は来なかった。



それだけ翠に゛疲れ゛を感じさせたのは、他でもない、



目の前で凛と佇む、彼女やろう。



「よお来たな。座り。」


「失礼致します。」



腰を落とした光樹に寄り添うように座った彼女も小さく礼をして僕をまっすぐに見つめた。



(良い眼やな。翠を任せられそや。)



彼女に向かって微笑んだ。

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