万智

第35話

side 翠



「・・・・・ん、」



目を覚ましたのは、明け方だった。



まだまだ覚醒していない頭を起こすと激しい頭痛に苛まれた。



「ク‥‥‥‥、」



目を手で覆おうとすれば、違和感に首を傾げた。


「・・・・、」


私の手は、まるで離したくないとでもいうかの様に背広を掴んでいて。



「チッ、」



感じる苛立ちに人生で初めての舌打ちを経験した。



壁へ投げ捨てた自身の上着を見つめ、今度こそ現実を否定する様に手で目を覆った。



「・・・・忘れましょう。」



そう呟いて、着替えを済ませた。



新しいスーツに身を包めば、いつもの自分を取り戻す。



姿見で無表情な自分をしばらく見つめ、自身の部屋を後にした。

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