第32話

一応連絡を一本入れたが、西龍のトップである僕が一傘下の西宮へ自ら赴くのは何かと面倒や。



しかし今回はこれから翠にとって大事な存在になるはずの女が関わってるし、


何より西宮の構成員はこのまま他の傘下に吸収させるには惜しい。



「でもその子さ、縁談の話来てんじゃないの?横取りは刺激しちゃうんじゃない?」



真琴の声で車窓を眺める僕の目は胸元へと移動する。



さすが田島家の娘、極道の習性を分かってるな。



まぁ今回の場合、横取りとは少し違うが・・・、



「そやな、その傘下、調べとこか。塚ちゃん?」


「は。」


「調べとき。勿論翠には・・・、これやで?」


「ッッ、は、はぃ。」



人差し指を立てて唇を寄せた僕に、塚本は何故か頬を染める。



「・・・てめぇ、男まで誘惑してんじゃねえよ!!」


「ウ"ッ、さ、すが、僕の真琴やな。」



腹に重い一発を喰らい、苦笑いが漏れる。



腹をさすっていると、車は西宮へ到着した。



車が門をくぐれば、玄関には組長自らが光樹と娘らしき女を従えて待機していた。



「うわっ、やっぱりあんたって偉いんだね。組長自ら出迎えてんじゃん。」


「・・・心外やな。僕一応西のトップやで?」



歯を見せて笑う真琴の目は、鋭く光樹を見つめている。



(さすが、田島隼人の妹やな。)



扇子を揺らしながら車のドアが開くのを待つ間、真琴の鋭い視線を眺めていた。



ガチャ・・・、



ドアが開き、残念に思いながらも足を踏み出す。



「お待ちしておりました。」


西宮と共に頭を下げた西宮の組員。



「ん、今日はな、"お願い"があって来たんや。」



口元で扇子を煽ぐ僕の隣で真琴が未だに光樹を鋭い視線で射抜く。

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