第31話
side 龍綺
「あんたさ、もうちょっと優しく言いなよ。あれじゃ翠が可哀想だよ。」
僕を責める真琴に苦笑いを返す。
「困った僕の弟はな、あんくらい言わな引き下がらん。
この季節は特にな。まぁ、今日はそれだけやないみたいやけどな。」
僕の笑いを含んだ声に、真琴が気色悪いものを見る目で僕を見てきた。
なんや、心外なんやけど。
「真琴。デートの場所な?」
「あ・・・うん。」
デートなんてフレーズだけで顔を赤くする真琴がかいらしいが、今は口を吸うてる場合やない。
大事な大事な弟の一大事やからな。
扇子を見つめる僕の顔は、とても嬉しそうにわろうてるやろな。
「西宮に、行く。」
「はぁ?さっき翠を行かしたばっかじゃん?」
訝しげに首を捻る真琴の、モカブラウンの頭を撫でる。
「未来の義妹に会いに行こか?」
「は?・・・・・・ふーんそういう事ね。
乗った!!」
楽しそうに目を輝かした真琴と一緒に部屋を後にする。
「運転手さん、西宮まで、お願いね!」
「え?は、はい。」
真琴の楽しそうな声に戸惑いながらも答えた塚本に、同意の意味で小さく頷いた。
楽しそうに車外を見つめる真琴は、恥ずかしさからか未だに僕とは正反対の端に座る。
(こういうとこは、ゆいかを見習って貰えんやろか。)
結局、ため息を吐いた僕が顔を真っ赤にした喚く真琴を胸に収めるいつもの光景を、塚本はバックミラー越しに見ることになった。
車は、西宮へと再び向かう。
一歩、翠の歩みが進むように背中を押すために。
「すべての物事はきっかけ次第や」
諦めたらしき真琴の頭にキスを落として車窓を眺めた。
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