第26話

玄関には組員が待機しており、私の靴が綺麗に置かれている。



私は頭を下げる組員を余所に、靴へと足を通した。



組員が手渡してくると思った靴ベラ。



手を差し出した私の手に靴ベラを握らせてくれたのは、組員の粗野な手ではなく、綺麗な女性の手。



ギクリと、肩が強ばる。



「本日は余りお構いも出来ませんで、申し訳ありません。」



彼女の低めの声が私の鼓膜を震わせる。



共鳴するように心臓の鼓動が聞こえた気がした。



「・・・・、っ、いえ。」



精一杯の言葉を吐き出し、彼女から奪い取るように靴ベラを受け取り、素早く靴を履いた。



役目を終えた靴ベラを彼女に渡そうとした時、



「ッッ!?」



カランッ、カラン……、



指先同士が触れただけで、私の指は弾かれた様に拒否反応を見せた。



同時に、吹き飛んだ靴ベラ。



床で音を鳴らす靴ベラを、彼女は悲しそうに見ていた。

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