第23話

心臓がバクバクと暴れるのを、小さく呼吸をして落ち着かせる。


そして、床から彼女に視線を移すも、何故か彼女の目だけは見ることが出来なかった。



ふと、彼女の少し後ろの姿見に写る彼女が目に止まる。



少し茶色掛かった髪は、肩の辺りまで伸ばされているだろうか。


それを軽く結わえ、左肩にいなしている彼女の美しい髪は、光沢を放っている。



紫色の着物からは、華奢な体のラインが伺い知れ、うなじからは妖艶な色気が漂う。



喉がゴクリと鳴り、頬が熱くなった。



「ッッ、放っておいてくださいっ。」


「アッ、」



彼女から逃れようと足早にここを去ろうとした私の肩が、彼女の華奢な体を突き飛ばした。



「っ、」



床に崩れ落ちた彼女を咄嗟に起こそうと手を差し伸べかけたが、私の手は彼女まで伸びきる事は無かった。



「・・・・、失礼致します。」



しゃがみこむ彼女を捨て置いて部屋を後にする。



複雑に造ってある廊下。


動揺しているとはいえ、私にとって元の部屋へと戻るのは造作も無いことだった。



「途中退席、失礼致しました。」



何かを話し込んでいた2人に向かって襖を後ろ手に閉めながら謝罪を口にする。



「おお、うちの庭はどうでした?」



彼女の部屋にいたのは短時間。


本当に庭を見ていたものと思われているようで、内心安堵のため息が出た。

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