第22話
部屋は白で統一され、物はほとんどない。
部屋中に香る彼女の香りは、チェリーのような甘酸っぱい香り。
女性の香りは甘ったるい、嗅ぐに耐えない匂いか、ゆいか様や真琴様の様に甘い香りのみだと思っていた私には、若干の驚きがあった。
「すいません、他人に見られたくない様でしたので自室へお連れ致しました。」
彼女の若干低い穏やかな声は、私の軋んでいる心を優しく包み込んだ。
そして、未だに繋がれたままの彼女の体温は、冷たい私の震える手に暖かさを与えた。
「気付いて、おられたのですか?」
私の異変に気付く者など、龍綺様以外にはありえなかった。
それほど私は隠すのに長けている。
この季節とはいえ、私の様子に今日初めて会った人間が気付くなんて信じられない。
知らずに表情の出ていたのかと、彼女の物であろう姿見で自分の顔を確認してみたが、写るのは一切の表情が無い、いつもの自分だった。
そんな私に彼女は首を傾げる。
「なんででしょうね。私にはあなたのその無表情が、泣いているように見えます。」
そう言って悲しげに微笑んだ彼女の暖かい手が、私の頬を滑る。
「ッッ、ま、さか…、」
目の前の女性の存在に、人生で初めて、混乱した。
なにか異質のものの様に写る彼女が怖くなり、彼女の手から逃れるように距離を取った。
彼女はそんな私を、何故か穏やかな目で見ている。
「お父さんの事は気にしないでください。光樹は優秀な男。だから、本家へ行った方が力を発揮出来ると思います。」
先ほどより砕けた敬語を使う彼女は、コロコロと表情を変える。
どうやら彼女は、自分とは対極にいる人間のようだ。
そのせいか、この"戸惑い"は?
私には彼女が、なにか危険な者のように見えてならない。
この感情は、"知らない"
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