第21話

「紹介が遅れた。こいつは娘の万智。

この通り売れ残りでな。もう27にもなるんだが男の影も無い。

だから光樹と結婚させるつもりだ。」


「・・・お父様?その話はお断りしたはずですが。」



笑顔を保とうと口元を引くつかせながら、万智さんはぎこちなく父親を見た。



「お前、もういい歳だろ。光樹はこの通りいい男だ、相手には申し分ないだろう?」



楽し気に言葉を紡ぐ西宮に、何故か私の心がざわめいた。



不思議だ。


この心が軋む感じは・・・、



あの男に、抱かれて以来感じた憶えは・・・無いっ。



「・・・・ハ、」




手が震えた。



この季節はただでさえ不安定なのだ。



私は必死に平静を取り繕った、筈だった。



「翠様でしたよね?」



凛とした声が私に届けられた。



「・・・・はぃ。」



少し小さくなってしまった私の声。


しかし前方の男2人は気付いてはいない。



「うちの庭は絶品ですの。お見せしたいわ。ささ、行きましょう。」


「え?」


私が戸惑っている間に、万智さんは私の腕を掴んで立たせる。



「おい、万智!失礼だぞ!」



西宮が嗜めるも、彼女は笑顔のまま。



「私は光樹とは結婚しません。

うちの自慢の庭をお見せして参りますのでお父様は少し気を落ち着かせてください。」



ニコリと微笑んだ彼女は、私を強い力でグイグイと引っ張って部屋を出ていく。



「あ、あの?」



突然の事に戸惑いながらついて行く私が連れて来られたのは、庭ではなく、どうやら彼女の自室のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る