第20話

しばらく、西宮は苦い表情をしていた。



光樹の事がそれほど惜しいという事だろう。


すると、漸く西宮は苦悶の表情を浮かべたまま光樹へと視線を移した。



「それは・・・できねえ。」


「断る、と?」



私の表情は変わらない。


なのに彼は何故かピンと張り詰めた警戒の色を瞳に宿した。



光樹を見つめる彼は、難しい顔を私に向ける。



「こいつは、うちの万智(まち)の婿にするつもりだ。だから・・・、」



そう言い淀む彼に違和感を感じた。


そして、無表情だった光樹に婿の話が出た途端、若干だが表情が崩れた。



恐らく、まだ正式には決まっていない事なのだと確信する。



「それは、まだ・・・、」


「お父様、お茶をお持ちしました。」



私が言いかけた時、襖の外から琴の音の様に、女性にしては少し低めの声が聞こえた。



「・・・入れ。」


「失礼致します。」



襖の開く音が聞こえるも、私の視線は光樹へと行っていた。



恐らく彼は東での事件で、愛する者が作れない人間だ。



愛のない結婚程お互いに不幸なものはない。



私はその言葉の意味を何年も見ていた。



龍綺様と千佳子(ちかこ)は、強すぎる愛情と激しい憎悪で成り立っていた。



私の母もまた、父の愛情の大きさに押し潰された。



結婚は、0でも100でもない。



50:50の関係でなくてはならない。



もしくは、奏様とゆいか様のような・・・、

大きすぎる愛情でも、際限なく受け止め続ける器を。



「本日はよくおいでくださいました。

粗茶でございますが・・・、」



私の思考は、心地良いアルトの声によって遮られた。



目の前には、



「・・・・・ッ、」




とても、美しい女性が、口元に弧を描いて座していた。



お茶を畳の上で滑らせ、サッと立ち上がると、光樹とは反対側の組長の後ろに腰を下ろした。

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