第18話

「柊光樹。」



それだけを言えば、


カタカタカタ・・・、


キーボードを叩く音が響き、ほんの30秒で画面いっぱいに彼の"人生"が映し出された。



目を細め、彼の全てを頭に刷り込む。



生まれから東での事件まで。



刑務所では模範囚だったようだ。


そのおかげか、予定刑期より1年早く出所。


そのまま東の虎の計らいで龍綺様指定の西宮の下っ端としてこちらへ来たようだ。



(優秀な人間のようですね。)



仕事ぶりや咄嗟の判断など、彼からは非凡な才能が見受けられる。



あれだけのことをしても東の虎が気にかけていたのが分かる気がした。



「ありがとうございます。」


「もぅいいの?ふーん。」



興味を失った様に画面を消し、キーボードを叩きだした彼は、最早"こちらの世界"に意識は無かった。



情報室を後にし、自室へと戻る。



西宮組は西龍の傘下の1つ。


傘下ではあるが、きっかけ次第でいつでも同盟に上がれるほど、組長含め組全体が優秀だった。


そんな西宮の組長は柊光樹をいたく気に入り、娘を差し出し組の後継者にしようとしている。



しかし龍綺様は、そうさせるつもりはないようだ。



欲しい



そう言った。



それは自身の側近に欲しいということ。



最近は龍綺様の周りが人手不足だ。



護衛頭が死に、最近増えた仕事量を考えると、2人は欲しい。



その1人に光樹をとお考えなのだろう。



押し入れに入り、暗闇の中一点を見つめる。



この時は思っても見なかった。



まさか明日、自分が運命の出会いをするなど。



暗闇の中、膝を抱える私が予想できるはずもない。

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