西宮組

第17話

「柊、光樹、(ひいらぎみつき)ですか。」



「そや。」




夏。



龍綺様に呼ばれ部屋へと向かうとその名を聞かされた。



「彼な、欲しい。」



ニィと顔を歪めた龍綺様。



「はぁ?あいつが咲(さく)に何したか知ってんの!?」



それに不機嫌そうに詰め寄った真琴様を、ただ見ていた。



龍綺様はそんな真琴様に真剣な目を向ける。



「彼はもう、償っとる。だからこそ、1年早よう出てきたんや。

彼は西に来て、精進しとる。

このままやったら親の組の娘とくっつけさせられそうやからな。

西宮(にしみや)に取られる前に、欲しゅうなってな。」



そう言って楽しげに喉を鳴らした龍綺様に、真琴様は強い目をまっすぐに向けた。



「・・・また、繰り返すようなら、私自らぶちのめすから。」



「ほぅ、さすが僕の嫁やなぁ・・・、(このままベッドに行きたいくらいや)」


「な"っ!?」



顔を真っ赤にした真琴様の頬にキスを落とした龍綺様を見つめ、口を開く。



「承知致しました。明日、すぐに向かいます。」



「ん。よろしゅう。」



そのまま喚く真琴様をベッドに運ぶ龍綺様を横目に、私の足は情報部へと進んだ。



コンコン・・・



「はいほーい。」



相変わらずの砕けた返事も、もう慣れた。


扉を開ければ、我が西龍会の情報屋、【蛙】が姿を現した。



切りそろえられた茶髪。


中肉中背、常にトレーナーとジーパン。


どこにでもいる大学生のような風貌の彼は、その様相を絶対に崩さない。


それは社会に溶け込み、目立たない為。



顔も整った方であると思う。


そんな彼だが、服を脱げば背中に大きな蛙。



彫師である真琴様も魅入ったその素晴らしい彫りは、常にトレーナーの中に隠れている。



「で?誰のデータが欲しかったり?」



奇妙な喋り方をする彼が部屋中に敷き詰められたパソコンの画面から視線を外し、椅子ごとくるりとこちらを向く。



彼の左耳に付けられたダイヤのピアスがキラリと光った。

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