第13話

いつもは組員たちの話し声や怒声、笑い声が響くこの廊下。



龍綺様はそんな喧騒を楽しむように闊歩する。



しかし今日は、物音すらせず、廊下には頭を下げた組員たちが整列している。



「頭(かしら)!おめでとうございますっ!!」



「「「おめでとうございます!!」」」



「ん、おーきに。」



嬉しそうな表情の組員たちの間を龍綺様と2人、奥へと進む。



最奥のふすまを組員が開けば、西と東の幹部が左右に別れて座っていた。



右の前方へ瞳を向ければ、私の最も憧れる方々が静かに座していた。



「なんや奏、来てもらってなんやけど不機嫌丸出しやなぁ?」



楽しそうに目を細めた龍綺様に、2番目に座す東の虎は小さく唸り声をあげ、その冷たい双眼をこちらに向けた。



「チッ、てめえのせいで最近隼人が使いもんにならねえ。そのせいでゆいかを抱き足り「奏?黙ろうか。」」



東の虎を嗜めたのは、彼に寄り添うように座している漆黒の髪の女性。



「・・・ゆいか様、お久しぶりです。」



東の虎が牙を立てるのを龍綺様がユルリと包み込んでいる間に、ゆいか様に話しかけた。



「あ、翠さん?この度はおめでとうございます。」


ゆいか様の穏やかな双眼が、私に向けられる。



「はい、龍綺様にも伝えておきます。」


「ふふ、そうですね、本当のおめでとうは翠さんの時にあなた自身に言いますね。」


「おい!翠なんかに話しかけんな!」



私を鋭く威嚇する虎を横目に、私の目はゆいか様の隣に釘付けだった。



「隼人様、どうなされたのですか?」



最早屍と化している隼人様は、力無く足元を見つめ、ただ呆然と座している。



隼人様をただ見つめている私に答えたのはゆいか様だった。



「真琴がお嫁に行っちゃうからね。哀しいのよ。」


「う"っ、」



ゆいか様の"お嫁"発言に涙を流し出した隼人様は、ただ、さめざめと涙を流す。



「チッ、うぜえ。」


「若、まぁそう言わずに。私もこのように泣きたいくらいなのですから。」



そうフォローを入れてきたのは田島陣(たじまじん)、組長の側近で真琴様のお父様だ。



組長代理と新婦の父親ということで、奏様よりも上座に座しているが、東の虎が誰かの下位に存在するというのは、中々違和感があるものだ。

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