第12話
いつもの扇子をユラユラと揺らしながら、龍綺様は遠くを見つめて目を細める。
龍綺様の目から、体から、漂う幸せそうな雰囲気に、私の凍りついている心も暖かい何かに触れた。
ゆいか様と奏様を前にしたような、
宙を浮いている様なそんな不思議な感覚だった。
「・・・幸せ、ですか?」
気が付けば、そんな当たり前の事を聞いていた。
遠くを見ていた龍綺様の美しい深蒼(しんそう)の瞳は、私へ向けられ幸せそうに三日月を描いた。
「そうやなぁ、幸せやな。やけど・・・」
当たり前の事を当たり前とは言わなかった龍綺様は、私の手を無造作に握る。
あの時初めて自覚した手の震えは、未だに震えを見せ、龍綺様までも拒否しているこの体に、私の眉がピクリと動いた。
そんな私を諌めるように、龍綺様は握っている手の力を強める。
「僕の本当の幸せは、君が幸せやと確信したらかな。真琴もそう思うてるわ。」
「ッッ、」
私をこんなにも大切にしてくださる我が主に、私は答えられているのだろうか。
最上級の嬉しい言葉なのだろうが、私の表情はピクリとも変化を見せなかった。
そんな私に、龍綺様は穏やかな笑みを向ける。
「焦らんでもいい。君はいつか見つける。僕にとっての真琴をな。
、いこか。」
「はい。」
私の頭を撫でた龍綺様に促され、龍綺様の部屋を後にした。
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