第8話

「体が悲鳴を上げても、君の心が気付いてあげてない。

それはいずれ、君の全てを壊す。

やから、一つずつ体の"悲鳴"を聴いたげよう。

そしたら、泣くことやって可能やないかな?」



「・・・・・、」



無表情な顔を、下へ向けた翠の頭を撫でた。


僕が拾ってから、翠は泣いた事が無い。



最後に泣いたのは、初めて父親と通じた日。


最後に流した涙がそれやなんて、可哀想やろ。



「唯一の女を見つけたいんやろ?それには少しずつ、人間に近付かんといけんな。」


「・・・はい。」



相変わらずの無表情やけど、少しだけ口角が上がった気がした。



「ところでやな、真琴の泊まりの用意は、万端か?」


「準備は滞りなく。しかし、」



綺麗に正座をして真っ直ぐに僕を見る翠には、既に一切の隙はのうなってる。



「それまでに片付けておかなければならない仕事が多々ありますので、ご休憩時間は一切ございません。

よろしいですね。」


「う"。せめて酒の時間くらい・・・」


「申し訳ございませんがございません。」



一刀両断の翠に、僕の手元から扇子が落ちた。

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