第56話

side ゆいか




不安は大きい。



「ママ?」


「ん?あ、ごめんね、途中だったね。」



子供部屋のベッドの上、寝る秋を寝かせる為に絵本を読んでいた私は、少しボーっとしてたみたいで。


不思議そうに見上げてくる秋に苦笑いを返した。



ーーー、



「オヤスミ。」



寝息をたてだした秋の額にキスを落として、子供部屋を後にする。


秋がいなくなって静まり返ったリビングは、私の不安を一層煽ってくれて。



「お風呂入ろ。」



後で一緒に入ると言っていた奏に意地悪のつもりで、ね。




ーーー、



「~♪、、~、」



奏のお気に入りの演歌を浴室に響かせてみるも、私の中でのしこりは消えない。


今日の接待相手である近衛瑠璃子社長のことは、聞いてもないのに弘人から聞かされていた。



『もうね、超美人。仕事バリバリ。マジすげー!』



狙っちゃおうかな?なんて私にウインクした弘人を骨折覚悟で殴りたかった。



「仕事バリバリー♪超美人ー♪」



歌にしてみるも、私の中の焦慮は一向に四散しなくて。


奏が彼女を好きになっちゃったら?なんて馬鹿な考えが浮かぶ。



そんな自分に苛立って。信じるって言った自分を嘲笑った時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る