第50話

「失礼致します。」


開かれた襖から姿を現した人物は、ストレートボブの黒髪を揺らし、静かに入室した。


「ッッ、」


息を呑むほどの美貌、とはこういうことを言うんだろうか。


ゆるりと垂れた大きな目は茶色がかっていて、彼女の容姿の甘さを表していた。


均整のとれたその容姿を彩るのは、さり気なくそれを補う為だけに施された化粧で。


ほどの良さは彼女の見目の良さを強調することに成功している。


高級スーツに身を包んだ彼女は、か弱い彼女の顔の印象に反していて。


しかしそれが絶妙にマッチしていて、彼女の優秀さを匂わせる。



「遅れてしまい、申し訳ありません。」


ニッコリ笑顔でそう言われてしまうと、どんな悪いことでも許してしまいそうだ。


「こちらへどうぞ。」


奏のそんな無機質な声にハッと我に返った俺は、彼女に見惚れていたらしい。


「はい。」


透き通った声でそう返事した彼女を、慌てて立ち上がって奏の向かい側へと促した。



広間の中心。長方形のテーブルを挟んで、静かに座った彼女と奏は対面した。



いつもの奏の無感情な眼に晒されてもなお、見つめ返す彼女の笑顔には不快さの欠片も見えなくて。


彼女を見ていると、なんだかこの2人が恋人同士に見えてしまうんだから不思議だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る