第43話

「痛い!奏ってば!」



隼人が悲鳴を上げるなか、私と奏は無言で見つめ合った。



「お前、俺が他の女の接待してもいいってのかよ?」


「・・・えっと、接待って仕事の接待だよね?」



珍しく口を尖らせて拗ねている奏は、隼人をグリグリと踏みつけながら、タバコに火を点けた。



私のツッコミにも反応するつもりはないらしい奏は、私をただ、冷たい目で見ていて。



「あのね、お仕事でしょう?嫌なだけで断っちゃダメなことは分かってるんじゃないの?」


「チッ、」



なるべく、穏やかにそう言った。女性の代表を接待することは初めてじゃない。


だけど、いつもは香水臭いとかキモいとかいう理不尽な理由で機嫌が悪いだけなのに、これだけ奏が嫌がっていることに、違和感を感じた。



「隼人?」


「あい。」



最早奏の足に踏まれておデコを床にくっつけちゃってる隼人を呼べば、ギクリと肩を強ばらせた。



「他にも言うこと、なにかあったりする?」


「ッッ、」


無言で隼人の上から退いた奏が、タバコの火をもみ消して。


そんな奏の胸に秋が飛び込んだ。



そんな微笑ましい親子の様子を横目に、隼人は冷や汗を浮かべて私の顔色を伺っている。

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