第36話
side 蓮
「奏…」
ゆいかが、呟いた。
それだけで兄貴の足が自然と動いて。
それに気付いた鉄が続き、隼人さんが携帯の画面から視線を上げる。
タバコを口端に咥えた兄貴は数歩でゆいかの前に立つと、
「遅刻だバカ。」
機嫌が悪そうに悪態をついた。
「ふふ、まだ3分あるよ?」
駅前の時計を見上げれば本当に3分前で。それを見もしない兄貴はタバコを地面で揉み消しながら鋭い視線をゆいかへと向ける。
「5分前行動は大人の基本だろうが。」
「ブッ、」
思わず噴き出した俺に、兄貴の険しい視線が突き刺さる。
「わりい。続けてくれ。」
「チッ。」
恋人たちの待ち合わせをぶち壊さないようにそう言ったのに、何故か舌打ちを食らう羽目に。
兄貴が5分前行動なんて言うからだ。
兄貴が”表の世界”以外で規則正しい行動をしたのを見たことがない。
”表の世界”、つまり会社では、時間厳守なんてのは常識で。それを破る人間に悪感情を持つ人間がほとんどだ。
だからこそ。契約をスムーズに進めるにはそれが基本の行いなわけで。
流石の兄貴も時間前には来る。
だけど本当の兄貴は基本”自分時間”つうので世界が回っているわけで。親父を前にしても基本、遅刻なんて観念すらない人間だ。
そんな兄貴が吐き捨てた発言に俺が笑っちまうのは仕方のないこと。
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