第34話
side 蓮
そう言ったゆいかの細められた目を見て、俺は複雑な心境だった。
何とも言えない表情をしている俺を余所に、ゆいかの足はついに街角を曲がる。
すると、いつもは賑わっている駅前の喧噪は、水を打ったように静まり返っていて。
通行人たちは遠巻きに、噴水前でタバコを吸っているその人物を熱心に見ている。
その男は、時計を見ながらイライラした様子でタバコを咥えていて。
その両端には笑顔で噴水の淵に腰かけて携帯を弄っている隼人さんと、直立不動でまっすぐに前を見ている鉄の両極端な2人が陣取っていた。
待ち合わせの彼氏、いや、厳密に言えば旦那だが。
これほど目立って、似合わない”待ち合わせ”は見たことが無い。
最早”待ち伏せ”の方が似合っている兄貴に、俺の口からため息が漏れた。
「ふふ、奏ったら、5分前行動してる。」
静まり返った場の空気にそぐわない、時計を見たゆいかの可笑しそうな声が響いて。
その場の雰囲気を呆れ顔で見ていた俺の意識を浮上させる。
静かなこの場のせいか、兄貴の気持ち悪いくらいの地獄耳のせいか、ゆいかの呟きが合図かのように兄貴の視線が上がる。
漆黒の鋭い目がタバコの煙に細められたまま、まっすぐにゆいかを見つめていた。
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