第32話
side 昴
ゆいかの心に遺されているまりかの爪痕は、時折顔を出しては、ゆいかを更に傷つける。
目の前にいるこの女たちは、その手先だ。
いや、そう言ってしまうのは理不尽なのかもしれない。
しかし…中学の時の目立たなかった同級生とはいえ、目の前にしてもゆいか本人だと気付かない事実に、愕然とするしかない。
「申し訳ないけど、行く必要がないんだ。今ゆいかは俺といるからね。」
「え?」
驚く女たちを無視して、ゆいかに微笑んだ。
ぎこちない笑みを返すゆいかに笑みを深める。
「お前が綺麗になりすぎて、同級生でも気付いてないぞ?」
「もう…何言ってるの?お兄ちゃんったら…」
ゆいかが呆れたように笑って。引っ掛かりのない笑みにホッと息をついた。
「あのっ、」
ゆいかの頭を撫でようとした俺の手を止めた不愉快な声の主を見れば、女たちが信じられないものを見るような目でゆいかを凝視していた。
俺が眉を顰めた時、
「ほんとに…新見、さん?」
伺うように放たれた女の声音は疑いを孕んでいて。
更に不愉快さが増した。
「え、うん。久しぶりだね。佐古(さこ)さん。」
「え!?マジで!?」
ゆいかが名を呼んだ事すら耳に入っていない女たちは、興奮に小さく飛び跳ねながらお互いに顔を合わせていた。
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