第30話

兄貴のことになると、ゆいかの”本中毒”も休止するらしい。




さっさと本を直してズンズン進むゆいかの背中を見て苦笑いが漏れた。



こんなにも機嫌のいいゆいかを見たのは初めてかもしれない。



嬉しそうに頬を緩ませるゆいかの隣に並んで、自分の頬も緩むのを感じた。



しかし。



歩いていた通りの角を曲がると駅、というところで。



「あ、新見さん!」



”偶然”に、出逢う。




振り返ったのは、新見昴と、元新見のゆいか。



続いて振り返った俺の目に飛び込んだのは、若い女の3人組だった。



咄嗟にゆいかを見れば、動揺に目を揺らしていて。



だけど視線を戻した女たちの目は、まっすぐに昴を見ていた。



俺が眉間に皺を寄せたところで、女の1人が昴に嬉しそうに話しかけた。




「覚えてますか?私たち、妹さんと中学一緒だった…」



その言葉に、俺の視線はゆいかへと向く。



まっすぐに彼女たちを見ているゆいかに対して、女たちは昴だけを見ていた。




もしかして、



「あの後まりかとも連絡取れなくなっちゃって…ゆいかちゃんが見つかったのか心配だったんです。」



気付いてないのか?

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