第6話
「大事な用事かもしれないでしょう?」
「チッ、」
楽しそうにそう言うゆいかの手は、俺のイライラを押し戻すように腹の上を妖艶に滑る。
そのせいか、さっきまで湧き上がっていた怒りが治まってくるんだから、俺もつくづくアホだと思う。
「隼人、寄越せ。」
「えー?出るんなら初めから投げないでよ。俺の素敵な顔に傷でもっ…さーせん。」
バックミラー越しに目が合っただけなんだが。何故か隼人は顔色悪く俺に携帯を素早く渡してきた。
めんどくせえから放置だな。
鋭くなっていた視線を和らげ、ゆいかを見下ろす。
そんな俺に微笑んだゆいかの唇に吸い寄せられて、鳴り続ける携帯の通話ボタンを押しながらその唇を塞いだ。
『切るなんて酷くなーい?ん?奏?あれ?』
電話口から漏れ聞こえる弘人の不思議そうな声をBGMに、ゆいかの唇を湿らせる。
『え?おーい!もしもーし!』
「ふふ、出てあげなよ?」
可笑しそうに笑うゆいかの表情は柔らかい。
しかしこいつが今、不安に苛まれているのを知っているから。
・・・昨夜、起き抜けに俺を見上げたゆいかの頬が濡れていたのを分かっているから。
「いい。ほっとけ。」
「ふふ、」
緊急の用だろうが、俺の最優先事項はいつでもこいつなんだから、弘人なんか待たせるに決まってる。
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