第5話

side 奏



『あ、奏?おっはー!』


「死ね。」



とりあえず通話をぶち切りしてイラつきのまま助手席めがけて投げつけた。



「ちょっ危ないっ、もーやめてよー。」



「キモい。うぜえ。」



危うく当たりそうになった隼人の抗議の声すら煩わしくて。ゆいかの指通りのいい髪に指を通そうとしたんだが…



「チッ、」


”会社仕様”のゆいかが髪を結わえていることを思い出して舌打ちが漏れ出た。



ゆいかを完全に手に入れたはいいが、これからゆいかは大学へと進学する。


恐らく、いや確実に、何かが起こるのは必然。


それが凶事だろうが吉事だろうが、新しい環境に踏み出せば避けられないのは事実だ。




問題はそれを、俺自身が処理できないということ。



大学内でのゆいかの全ては、蓮たちに委ねるしかないからだ。


会社を放り出せば俺が関わるのも実現可能だが、ゆいか自身がそれをよしとはしないだろう。



ゆいかが高校卒業に近付くにつれ、俺の中でソワソワと落ち付かない感情が込み上げ、卒業を迎えた事でそれは爆発した。



ピリリリ…



「チッ、」



忙しなく鳴り続ける携帯にさえも、イライラが抑えきれない。



「奏?」



それをなんとか押し込むように親指と中指でこめかみを抑えた時、ゆいかの穏やかな声が俺の鼓膜を震わせた。

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