第3話

そっと下ろされた身体は、洗面台の冷たい感触を感じて小さく身震いした。


春だというのに、まだまだ生活スペース以外には冷たさが残る。



でもそのお陰か、目覚めてしまった私。瞼をゆっくりと上げれば、私に向かって微笑んでいる奏が私の全てを支配した。



「ただいま。」


「フ、おかえりなさい。」



漸く。言えた奏の言葉に、私は思わず笑いながら返して。


それに笑みを深めた奏は、口角を上げながら私の唇を塞いだ。



「…ふ、」


小さく漏れた声すらも、奏の口内に溶け込んで。


奏とのキスは、好き。


なんだか私たちが一つの個体の様に感じられるから。



「ん、…ぁ。」



ちゅっとリップ音を響かせて離された、奏の濡れた唇をうっとりと見つめていると、なんだか寒さを感じた自分の身体。



違和感を感じながら下を向くと、着ているワイシャツの前のボタンが全て外れていた。



「「・・・。」」



呆れた目を向ける私と、機嫌良さそうに見つめ返す奏の沈黙は数秒。



「はぁ、入ろっか。」


「ん。」



最早ため息しか出ない私の降参とも取れる誘いに、奏は満面の笑みを浮かべた。

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