第56話
それでも僕は、止められなかった。それだけ、この世には愚かな人間が多いから。
自己満足の為にいろはを傷付け、時折それは、狂気に変わるから始末が悪い。
松本にこもそうだ。あんなゴミは、ゴミ箱に捨てたって意味が無い。
悦郎や松本にこのような大きなゴミは、原型を留めないほど燃やし、粉々にしてしまわないと。ああいう輩は、例え粉になってしまったとしても、人々の肺を侵す。
存在自体が、危ないんだ。
「郁。」
僕の名前を縋るように呼んだいろはが、僕の腰に手を回す。
抱きしめ返して後頭部を撫でれば、更に腕の力が強まった。
震えるいろは。可哀想ないろは。
こんなに、怖がって。
「大丈夫。」
僕が、傍にいるから。
「郁、怖いよ。」
素直にそう言ったいろはは、見開いた目を涙で満たす。
綺麗な雫を、唇を寄せて拭き取って。
なるべく優しく、穏やかに微笑んで。
歯をガチガチと鳴らすいろはの唇を一瞬、塞いだ。
だけど寒さに凍えるように、いろはから恐怖が抜けない。
悦郎の立てた爪痕は、それほど深いんだ。
1回、2回、いろはの唇を塞いで。
瞼はお互い開いたまま、見つめ合ったまま唇を寄せ合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます