第55話

「疲れたから今日はもう動かねえ。泊まらしてもらう。」



そう言った師範は、1階の客間で寝るから邪魔すんな、と言って部屋を出ていった。



帰って来て知らない男が客間で寝てたらさぞかし、父さんは驚くだろうなと思う。



変に、空気を読んでいる大人たち。呆れてしまう。



自分でやっててなんだけど、自分の息子のこういう行為を黙認してる親って、かなりイカレてると思う。



だけど、僕は、知っている。母さんが、僕の内に潜む怪物の存在に気付いていることを。


時折、オドオドしては僕の顔色を伺っているような人だった。



僕が、悦郎の兄貴を追い詰めた時だって。やっていることは分かっていたはずだ。多分、だけど。



僕が家に帰る度、何か言いたそうな顔をしていることが多かったから。



それでも、母さんは、僕といろはを、見守り続けた。



僕が今まで数多くしてきたことは、悪い事だ。それを黙認し、正しい道に導こうともせず、母さんはそれを黙認した。



僕は親不孝だ。だけど母さんも”子不孝”なんだと思う。



僕が全て悪い。僕のしていることは、いろはを傷付け、母さんをも傷付ける。そして、父さんもだ。

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