第53話

だけど、それはそれまでだ。



いつもの余裕の笑みに戻ってしまった黒瀬は、煙草に火を点けた。



「つってもな、勝手に正義を語った奴らに襲われて、大けがしたんだ。入院中のあいつはそれでも郁に謝りに行こうとしてたからな。お前のやってることは偽善だと、俺が教えてやったんだ。」


毎日行ってるって報告を受けた時、吐き気がしたぜ。そう吐き捨てる黒瀬は、悪人にしか見えない。


煙草の煙に目を細めて、黒瀬は小さく、俯く。



「精神的に、っつう情報を流したのは俺だ。お前等に二度と会わないように説得したのもな。キモイ兄妹ごっこはやめて、自分の弟に専念しろ、そう言った。」


「弟?」


黒瀬の言葉に、いろはが僕を見上げる。記憶をたぐり寄せて、天井を見ながら目を細めた。



「……ああ、いたね、弟。黒瀬の方にも妹がいるらしいけど。」


「妹は全く関係ねえけどな。弟はさっきいたろ?いろは。」


「……。」


問いかけに首を捻るばかりのいろはに、黒瀬は紫煙を吐き出しながら目を細めた。



「焔の現総長、阿部柊羽だよ。」


「え!?」


「っっ、」



目を見開いた。子供の頃に一度だけ見たことがあるけど、その頃の面影は今は皆無だったから。

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